中国での動物感染実験結果

中国での動物感染実験結果が、4月8日にScienceに報告されました。概要を日本語で紹介します。

村上裕信藤野寛菊水健史 訳


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Susceptibility of ferrets, cats, dogs, and other domesticated animals to SARS–coronavirus 2

https://science.sciencemag.org/content/early/2020/04/07/science.abb7015


要旨

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は、2019年12月に中国の武漢で初めて報告された感染症COVID-19を引き起こします。この病気を制御するためのたゆみない努力にもかかわらず、COVID-19は現在、100カ国以上に広がり、世界的なパンデミックを引き起こしています。SARS-CoV-2はコウモリに由来すると考えられているが、ウイルスの中間的な動物由来は完全に不明です。今回の実験では、フェレットやヒトと密接に接触している動物のSARS-CoV-2に対する感受性を調べました。その結果、イヌ、ブタ、ニワトリ、アヒルではSARS-CoV-2の感受性とウイルスの複製能は低いが、フェレットやネコでは感染しやすいことがわかりました。また、ネコは空気感染しやすいことが実験的に明らかになりました。本研究は、SARS-CoV-2の動物モデルとCOVID-19コントロールのための動物管理について重要な知見を提供するものとなります。



図1 フェレットにおけるSARS-CoV-2ウイルスの複製。

この論文では中国武漢市の海鮮市場と人の患者から分離されたF13-EとCTan-Hという2種の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)を用いて実験しています。A,Bではそれぞれのウイルスをフェレットの鼻にウイルスを接種して(感染させて)、体のどの部分で増えているかを、ウイルス遺伝子を検出することによって調べています。その結果、フェレットにおいても上部呼吸器でウイルスが検出され、それ以外の臓器では検出されなかったことを示しています。C,Dではその検出されたウイルスが感染力を持っているのかを調べています。結果は、感染したフェレットから感染力をもっているウイルスが検出されていることを示しています。次に、そのウイルスがどのくらい鼻の中にいるのか調べたところ、ウイルスの遺伝子は8日目まで検出され(E,F)、感染力があるウイルスは6〜8日まで検出されることが分かりました(G,H)。この感染したフェレットにウイルスに対する抗体があるのか2つの方法(I:ELISA法、K:中和試験)で調べた結果、抗体が作られていることが分かりました。また*マークの付いているフェレットは抗体量が少なく、他のフェレットよりも重症でした。



図2:ネコでの感染実験

図1で行った実験をネコでも同様に行った結果です。6〜9ヶ月の若いネコ(subadult)の鼻にウイルスを接種して、3日目(Day 3 p.i.)と6日目(Day 6 p.i.)に体のどこにウイルスがいるのかを調べました。3日目だと肺、上部気管、小腸でウイルス遺伝子が検出され(A)、肺や上部気管においては、感染力があるウイルスである(B)であることが分かりました。一方、6日目には上部気管でしかウイルスが検出されませんでした(C、D)。次に、生後70〜100日の子ネコ(juvenile)でも同じように実験を行ったところ、若いネコ(subadult)と同様に3日目でウイルスが検出され(E,F)、6日目でも上部器官だけでなく肺からもウイルスが検出されることが分かりました(G,H)。

図3 ネコからネコへの伝染性の確認実験

これらの図は、ウイルスを接種したネコと隣のケージで飼育していた感染していないネコで実験を行った結果を示しています。Aではウイルスを接種したネコの糞便(Inoculated)からも隣で飼育していたネコ(Exposed)からもウイルスが検出されました。また、このネコの上部気管からウイルスが検出され(B)、抗体も検出されることが2種の検査法から分かりました(C:ELISA法、D:中和試験)。次に子ネコで同じ実験をしたところ、隣で飼育していた1匹のネコの鼻から5日目以降にウイルスが検出されました(E)。また抗体を調べた結果、抗体が作られていることが確認されました(F,G)。これらの実験からウイルスがネコからネコへ感染することが分かりました。

この論文ではイヌ、ブタ、ニワトリ、カモでも同様の実験をして、イヌ以外では感染を確認できませんでした。また、イヌでウイルスを接種すると数匹が感染したことが分かりましたが、感染したイヌから感染力のあるウイルスは検出されず、イヌからイヌへの感染は無いことも分かりました。



補助図1 イヌでの感染実験

イヌ6頭のうち、4頭にSARS-CoV-2を摂取し、14日の抗体価濃度を測定しました。4頭中2当では感染が認められましたが(イヌ2、3)、その他の2頭では感染しませんでした。また同居したイヌ2頭(イヌ5、6)でも感染が認められなかったことから、イヌからイヌへの伝染性は弱いと考えられました。



補助表1 SARS-CoV-2のスパイク部に結合するACE2受容体タンパク質のアミノ酸配列比較。ヒトの配列に比べて、ネコは相同性が高く(4箇所の変異を含む)、フェレットではそれに加えて、合計6箇所の変異が認められました。この類似性が、感染に対する感受性に関係すると考えられます。

麻布大学 ヒトと動物の共生科学センター Center for Human and Animal Symbiosis Science

麻布大学では、文部科学省私立大学ブランディング事業にて「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」(平成29年度ー32年度)が採択され、多くの成果を得、また高く評価されてきました。本研究センターはその後継として、麻布大学生物科学総合研究所に設置されたものです。これまでの高い研究力や多くの知見をさらに発展させ、ヒトと動物の共生を進め、両者の互恵的健康支援を進めてまいります。