概要 Concept

「ヒトと動物の共生科学センター発足に際して」 

 このたび、麻布大学では麻布大学附置生物科学総合研究所の研究部門内に「ヒトと動物の共生科学センター」を発足いたしました。本学は文部科学省の平成28年度私立大学研究ブランディング事業に「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」を提案し選定されました。ブランディング事業では選定率約20%で40校という厳しい審査の中での選定であったことから、研究機関としてはとても光栄なことであり、身の引き締まる思いでした。今回、その後継の研究組織として本センターを立ち上げました。

 本センターは、麻布大学の建学の精神『学理の討究と誠実なる実践』を具現化するものです。創設者與倉東隆先生の建学の精神である、「学理を討究し実践を重んじる誠実なる校風を受け継ぎ、人と動物の共存及び、人と自然環境との調和の途を探求することを目的とした学術の教授」を、研究、教育、社会というキーワードで結び、実践してまいります。

 本センターでは「ヒトと動物の共生システム」を科学的に解明し、ヒトの健康社会の実現をめざすことを目標としています。これは本学が教育研究理念として掲げている「地球共生系~人と動物と環境の共生をめざして~」に根ざしており、本学を構成する獣医学部と生命・環境科学部にある「動物とヒトの健康そして環境を科学する研究力」が連携機能すれば、この研究目標は達成可能になります。このような全学的な研究体制を基盤として、世界に先駆けた「ヒトと動物の共生科学」は本学でのみ実現可能なブランディング力の高い課題であり、将来、本学の研究の看板となる取り組みであると確信します。

 これからの新しい麻布大学にご期待ください。


麻布大学 学長

 麻布大学「ヒトと動物の共生科学研究センター」は、ヒトと動物の共生を科学的に解明し、その成り立ちを介してヒトの健康社会に寄与する、という新しい学問領域の創設を目指します。ヒトはその進化の過程で、長らくの歴史を動物と共に歩んできました。初期には獲物としての狩猟であり、近年は野生動物を家畜化し、食料源として活用してきた歴史があります。また現代では、伴侶動物との親密な社会的かかわりをもつようになり、動物との生活が人間に恩恵を与えることもわかりました。例えばイヌとの共生による戦争帰還兵などのうつ病,自閉症児のケア,疼痛抑制や消化器疾患への改善効果が報告されてきました。このように動物との共生は、ヒトにとって大変有益なものであったと考えられています。しかし、現代社会を鑑みると、20万年以上にわたるヒトと動物との共生の形は、非常に異なったものへと変異したことがわかります。今一度、その根源的なヒトと動物の共生のありかたを捉え直し、新たな共生の道を見出すことで、ヒトと動物が培ってきた本来の豊かな生活が得られると期待されます。ヒトと動物の共生を捉えるとき、3つのポイントに着目しました。

1)共生がなぜ成り立つのかという認知的な共生関係、

2)共生による動物由来の微生物叢とヒトの健康の関係性、

3)ヒトと動物が共生することによる遺伝的推移、

4)病原体を介したヒト、動物の共生のあり方、です。

これらの動物との共生のメカニズムを分子生物学的に明らかにすることで、新たな動物との共生科学の概念を構築し、ヒト健康社会の達成を目指します。

1.ヒトと動物における認知インタラクション解析:ヒトとの共生を可能にする動物のもつ優れた認知的インタラクション機能を解明します。また動物とのかかわり方、福祉的観点などがもつ利益を明らかにします。

2.ヒトと動物の微生物クロストーク:動物との共生において健康に寄与する微生物の同定とその機能解明を目指します。例えばヒトの免疫系や中枢の発達に寄与する細菌叢を見出します。

3.動物との共進化遺伝子の同定:イヌを代表とする動物とヒトとの共進化した疾患の遺伝子変異を明らかにします。特にヒトとの平行進化として報告された皮膚病や代謝疾患、癌にかかわる遺伝子の同定や機能解析、家畜化に関わる遺伝子の同定などを進めます。

4. 人獣共通感染症との共生:ヒトと動物は様々な微生物を共有し、一部はCOVID-19に代表されるような、パンデミック型の感染症も人獣共通感染症に該当します。人類はこれまでもその進化の過程、あるいは文明下における特定の病原体の撲滅の成功など、人獣共通感染症との複雑な関わり方をしてきました。今後、人獣共通感染症とどのように共生が可能なのか、微生物の特性やその検出方法、治療方法、疫学調査などを実施する研究を進めます。

 本事業を遂行することにより、最終目的であるヒトと動物の共生概念を達成し、人間社会の健全かつ持続可能な社会の発展に貢献することを最終目標としています。みなさん、これからの新しい麻布大学にご期待ください。