イヌを飼うと思春期の児童のメンタル改善

麻布大学は、ヒトと動物の共生科学センターの 茂木一孝 教授をリーダーとし、菊水健史 教授(同センター長)、永澤美保 講師、石原淳子 教授、東京都医学総合研究所の 山崎修道 主席研究員、中西三春 主席研究員、遠藤香織 研究員、西田淳志 研究員、東京大学医学部附属病院 笠井清登 教授、安藤俊太郎 助教、総合研究大学院大学 長谷川眞理子 学長により、東京ティーンコホート研究において、イヌを飼育することで10代のこどものWellbeingが良くなることが明らかになりました。


●発表のポイント

・現代社会において、イヌの飼育のもたらす心身への良い効果が報告されていますが、その解析手法は限局的でした。

・今回、東京都医学総合研究所にて実施している思春期世代のこどもを対象としたコホート調査により、イヌの飼育経験が、WHOが定めるWellbeing(良好性状態)を向上させることが明らかになりました。

・イヌは最古の家畜であり、1万5千年から3万5千年前にヒトとの共生を始めました。この長い共生の過程を経て、ヒトとイヌの心身の互恵的な関係が構築された可能性があります。

●発表内容

イヌは1万5千年から3万5千年以上前に登場し、ヒトと共生を始めた最も古い家畜です。この共生の過程において、イヌとヒトは視線を介してお互いが絆形成や信頼に関わるホルモン「オキシトシン」を分泌し、絆を形成することができる、特別な関係を構築できるようになったことを見出しました。これらのイヌの特性によって、現代のヒト社会でイヌは広く受け入れられるようになったと考えられます。

オキシトシンにはヒトの心身において様々な良い効果が知られています。例えば不安の軽減、ストレスの解消、整腸機能、痛みの緩和、緊張の軽減などがそれにあたります。このようなオキシトシンの効果は、イヌの飼育によるヒトの心身への良い影響のメカニズムの一部であるとされてきました。しかし、イヌの飼育がヒトの健康、特に多感な時期にある思春期のこどもたちに対してどのような効果があるかは明らかでありませんでした。

今回、東京都医学総合研究所にて先行実施されていた東京Teen Cohort(TTC)研究に参加し、イヌの飼育の有無と、WHOの定めるWellbeingの関係を調べました。Wellbeingとは、1984年のWHO検証において「健康とは、身体面、精神面、社会面における、すべての wellbeing(良好性)の状況を指し、単に病気・病弱でない事とは意味しない」と記載され、身体だけではなく、精神面・社会面も含めた新たな"健康"を意味するものです。今回、TTCに参加する2584名のこどもを対象に、10歳時と12歳児におけるWHO wellbeingを調査しました。これまでの研究結果と同じように、多感な時期にあるこどものWellbeingは10歳から12歳時に向けて低下しました。またイヌを飼育しているこども(252人、9.9%)ではそうでないこどもと比較して、Wellbeingによい影響がありました。

今回、日本でのこどもを対象としたコホート研究により、初めてイヌの飼育経験がもたらす心身の健康が明らかになりました。一方、ネコではこのような効果が認められませんでした。また、思春期のこどもに多くみられる、不登校やいじめ、拒食症などの様々な問題に対して、イヌの飼育が効果をもたらす可能性も見出されました。今後、イヌの飼育によるどのような経験が、具体的にどのような心身の機能の影響を与えるかの、行動学的、内分泌学的視点から、明らかにすることが期待されます。



掲載論文;International Journal of Environmental Research and Public Health, 17, 884, 2020

DOI; https://doi.org/10.3390/ijerph17030884


<関連情報>

・ヒトと動物の共生科学センターのHP https://azabu-chass.themedia.jp/

・『動物共生科学への招待~ヒトと動物と環境の未来をつくる~』(編著者:麻布大学ヒト

と動物の共生科学センター、出版社:大学教育出版 https://www.kyoiku.co.jp/

<参考情報>

●麻布大学について

麻布大学は、今年2020年には創設130周年を迎える獣医系大学として二番目に長い歴史を持つ大学です。私立大学として動物学分野の研究に重点を置くトップクラスの実績を基盤に、新たな人材育成に積極的に取り組んでいます。

本学は、獣医学部(獣医学科、動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科、食品生命科学科、環境科学科)の2学部5学科と大学院(獣医学研究科と環境保健学研究科)の教育体制に、学部生:2,492名、大学院生:82名が学んでいます(2020年5月1日現在)。1つのキャンパス内(神奈川県相模原市)で、人・動物・環境に関する教育・研究を実施している国内唯一の大学です。

麻布大学の概要:https://www.azabu-u.ac.jp/about/feature02.html

●本件のお問い合わせ先 

<広報部門の連絡先>

・広報課 担当:栗末、有嶋

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麻布大学 ヒトと動物の共生科学センター Center for Human and Animal Symbiosis Science

麻布大学では、文部科学省私立大学ブランディング事業にて「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」(平成29年度ー32年度)が採択され、多くの成果を得、また高く評価されてきました。本研究センターはその後継として、麻布大学生物科学総合研究所に設置されたものです。これまでの高い研究力や多くの知見をさらに発展させ、ヒトと動物の共生を進め、両者の互恵的健康支援を進めてまいります。