絶滅したニホンオオカミ、日本犬との関係は?

The Japan Times に菊水のコメントが記載されました。ニホンオオカミと日本犬の関係が記載されています。



(抜粋の日本語訳;菊水訳)

遺伝的な特徴

興味深いことに、柴犬や秋田犬など、オオカミに最も近い遺伝子を持つとされる日本の犬種が存在し、今でも狩猟の際にはオオカミのような行動をとることがあるという。

麻布大学獣医学部教授の菊水健史氏によると、日本最古の犬は先史時代の縄文時代(B.C.10,000~B.C.200年)に渡来したと考えられている。例えば、愛媛県の上黒岩遺跡から出土した埋葬された犬の骨は7,300年前のもので、当時は犬と人間が一緒に生活していたことを示している。

弥生時代(B.C.250〜A.D.200)には、朝鮮半島の弥生人が犬を連れてきた。その後、全国に広まり、縄文時代の狩猟採集民とその猟犬を列島の北端や南端に追いやってしまった。菊水氏によれば、現在の日本犬は、この縄文・弥生時代の犬とその交配種にまで遡ることができるという。

現代の犬は、犬種と呼ばれる何百もの遺伝的集団に分かれている。米国国立ヒトゲノム研究所の研究者であるハイディ・G・パーカーは、2017年に『Cell Reports』誌に掲載された研究で、161犬種を代表する1,346頭の犬のゲノムデータを調査した。記事で紹介された円グラフでは、シベリアン・ハスキー、チベタン・マスティフ、グリーンランド・スレッド・ドッグと並んで、遺伝的にオオカミに最も近いとされる10犬種の中に、秋田と柴が含まれている。

菊水氏によると、犬もオオカミも、絶滅したと考えられる共通の祖先から分岐した亜種であることが研究で明らかになっているらしい。オオカミの中でも特におとなしい個体が人間に近づき、共存を始め、何世代もかけて犬に進化したのではないかと考えられている。

"私の仕事は、日本の犬種のDNAを調べて、ヒトと犬の交流がいつ始まり、いつオオカミとイヌが分かれたのかを明らかにすることです」と菊水さんは言う。

また、岐阜大学の石黒博士などの研究では、ニホンオオカミが日本犬に家畜化された可能性は低いとされていますが、菊水氏は多少の交配の可能性もあると考えています。

「ニホンオオカミの生息地である山間部には、犬がよく放たれていました。"山犬”と言われるような雑種の子供が生まれたこともあったはずです」

ニーマン博士らの研究もこの説を支持しています。ニーマンは、「私たちが分析した標本は日本犬の祖先を持っており、今回の結果は、少なくとも一部の日本犬が今日、ニホンオオカミの亜種のDNAを持っていることを示唆しています。"歴史上の日本犬のゲノムを解析して、ニホンオオカミがどのくらい犬と交配していたのかを調べるのは、非常に興味深いことです」。

かつては、イノシシやシカなどの農作物を荒らす動物から農民を守る神として崇められていたオオカミは、江戸時代(1603〜1868)末期から明治時代(1868〜1912)にかけて、家畜を捕食したり、時には人間を傷つけたり殺したりするために狩り尽くされてしまった。

動物行動学の専門家である菊水氏によると、オオカミは人間に対して非常に警戒心が強く、本来は攻撃的ではないという。そのため、人間が野犬やオオカミと犬の交配種をオオカミと勘違いしているケースが多く、それがニホンオオカミの絶滅につながったのではないかと考えている。

ニホンオオカミは山奥に生息していたことが知られていますが、その生態については不明な点が多い。そのためか、今でもオオカミのような生き物の目撃情報が絶えません。菊水氏はその可能性に否定的な立場である。通常、2匹から10匹のオオカミが群れになって移動して暮らしているが、近親相姦を防ぐためには、最低でもその隣接地域には、50~100頭のオオカミ集団が必要であり、その数であれば目撃例も多くなるはずだという。

農村部で何世代にもわたって語り継がれてきたオオカミの民話は、人間がオオカミという得体の知れない動物とどのように付き合ってきたかを知る手がかりとなるだろう。

菊水氏によると、「おくりオオカミ」をはじめとする伝説の中には、山道を歩く旅人に付き添って旅を守ったという、実際の行動に基づいたものもあるようだ。

「ニホンオオカミ(山犬)には、自分の縄張りに入ってきた人につきまとうという特徴がありました。縄張りから出ていくまでを見届け、その後自分の住処に帰っていったことでしょう。それが送りオオカミです」と語る。


麻布大学 ヒトと動物の共生科学センター Center for Human and Animal Symbiosis Science

麻布大学では、文部科学省私立大学ブランディング事業にて「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」(平成29年度ー32年度)が採択され、多くの成果を得、また高く評価されてきました。本研究センターはその後継として、麻布大学生物科学総合研究所に設置されたものです。これまでの高い研究力や多くの知見をさらに発展させ、ヒトと動物の共生を進め、両者の互恵的健康支援を進めてまいります。