SARS-CoV-2の起源はイヌとの論文


最近報告された論文"Extreme genomic CpG deficiency in SARS-CoV-2 and evasion of host antiviral defense" (2020年4月)では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)と他のコロナウイルスの遺伝情報を比較することによって、その起源を調べています。この論文で注目した遺伝情報は「CpGジヌクレオチド(CpG)」という、人を含めた動物の免疫システムが認識する部位についてです。このCpGがウイルスに多いと、動物の免疫反応によってウイルスが体の中で増えるのを抑えられるため、ウイルスにとって、CpGを減らしていくことが有利に働きます。逆に、我々にとってCpGが少ないウイルスは、増えるのを抑えにくく、症状がおもくなりやすい毒性の強いウイルスであると言えます。

このCpGの値を新型コロナウイルスと他のコロナウイルスで調べたところ、他のコロナウイルスよりも新型コロナウイルスとイヌのコロナウイルスでその値が低く、2つのウイルスは遺伝的に比較的近いことが分かりました。また、このようにCpGの値が減る原因はCpGを認識する因子がたくさんある消化管(小腸や十二指腸)の中で進化していたからであるとも考察しています。これらのことから、新型コロナウイルスとコウモリのコロナウイルスの祖先は、哺乳類(イヌやヒト)の消化管で進化したと考えられるため、野良犬の調査も必要ではないかと結論づけています。

しかし、イヌは新型コロナウイルスに感染しにくく、感染性のあるウイルスが検出されないことが報告されています。論文ではイヌの消化管に新型コロナウイルスやかなり近いウイルス(コウモリのコロナウイルスなど)を検出したわけではありません。また、ウイルスの遺伝情報のごく一部(CpG)だけに注目しているのと、その一部の遺伝情報だけによる解析ですので、イヌの体の中で新型コロナウイルスが生み出されたと、今すぐ結論付けることはできなさそうです。したがって、イヌが新型コロナウイルスをヒトにうつすと端的に理解できないと思われます。実際に、この論文でもヒトがコウモリの肉を食べたことによって、新型コロナウイルスが生み出された可能性も説明しています。そのため、どの哺乳類の消化管で新型コロナウイルスの祖先が生み出されたかについて、さらなる研究が必要だと思われます。

「新型コロナウイルスが野良犬からヒトにうつった」という記事

https://gigazine.net/news/20200415-stray-dogs-spread-coronavirus/

なども見られますが、科学的解釈にかけている点もあり、その情報には注意が必要です。

麻布大学 ヒトと動物の共生科学センター Center for Human and Animal Symbiosis Science

麻布大学では、文部科学省私立大学ブランディング事業にて「動物共生科学の創生による、ヒト健康社会の実現」(平成29年度ー32年度)が採択され、多くの成果を得、また高く評価されてきました。本研究センターはその後継として、麻布大学生物科学総合研究所に設置されたものです。これまでの高い研究力や多くの知見をさらに発展させ、ヒトと動物の共生を進め、両者の互恵的健康支援を進めてまいります。